自閉症スペクトラム障害と子育て
教員時代、自閉症のお子さんを持つお母さんの
悩みとして多かったのが
子供が何を考えているかわからない
育て方が悪かったの?
どう接すればいいの?
この子の将来は大丈夫なのだろうか?
というお子さんとの接し方についてでした。
自閉症のお子さんは
特に大きな問題もなく学校で勉強できる子もいれば、
コミュニケーションが困難で自身の行動を制御できない子まで
様々な症状があります。
しかしどんな時でも大切な事は
母親が一人で全てを背負い込まず、
自身の心の余裕を持ちながら子育てができるように
様々なサポートを活用していくことです。
ココでは子育てという観点から
自閉症スペクトラム障害の特性と子育てについてまとめました。
自閉症スペクトラム障害(ASD)を理解する
教員やカウンセラーとして
アスペルガー障害が自閉症スペクトラムなどの
ASDについて勉強していると、
彼らの「生きにくさ」という言葉をよく目にします。
私が学生のころ授業でよく言われたのは、
アスペルガー障害の人は私たちと見えている世界が違う
ということを言われました。
自閉症のお子さんの子育てもそうですが、
彼らを無理やり私たちの社会という枠に当てはめようとすると
「生きにくさ」というものが出てくるのではないでしょうか。
大切なことは、
社会生活でも子育てでも
しっかりと障害を理解する
ことだと思います。
ここではもう少し詳しく
ASD(特にアスペルガー障害)についての
特性を見ていきたいと思います。
アスペルガー障害の特徴1-発達の偏り-
アスペルガー障害は
生まれつき脳の中枢神経系に機能障害があり、
脳の働き具合が偏って発達していると言われています。
つまりアスペルガー障害とは
発達の「遅れ」ではなく、「偏り」であると
理解しなくてはなりません。
簡単に言うと
勉強はできるのに他の事が苦手など
出来る事と出来ないことに「偏り」ができると
イメージしていただければよいのではないでしょうか。
アスペルガー障害の特徴1-情報処理のちがい-
私が学生のころ、授業でよく
自閉症の人は私たちと見えている世界が違う
ということを言われました。
一般的には
アスペルガー障害の人はその他の人と
脳の情報処理の仕方が違う
と言われています。
この情報処理の違いから、
物事の感じ方、考え方が違ってくる
とされています。
私たちは社会で生きていく上で
「暗黙の了解・ルール」というものがあります。
例えば椅子などに長時間座った後などは”のび”をしますよね。
でも満員電車の中ではしませんし、
それが「何故だめか」も考えません。(それが当たり前だから)
でもアスペルガー障害の人は満員電車の中で”のび”をしてはいけない
というのがわからないのです。
「何故してはいけないのか」がわからないから
怒られたりしても「何故」怒られたのか分からずパニックになってしまう
などがあるようです。
これは彼らに「常識がない」とか「悪戯する」とかではなく、
脳の構造上の問題で理解できないとされています。
アスペルガー障害の特徴3-能力の偏り-
アスペルガー障害の人は能力についても偏りがある場合が多いです。
人間の能力には学力という枠組みだけでなく
一般的な知識がどれだけあるか
言葉を状況に応じて活用する言葉の理解
目で見た情報をどれだけ認識できるか
課題をどれだけ早く処理できるか など
様々な能力を組み合わせて生活しています。
アスペルガー障害の人はこの能力のバランスが
通常の人よりも大きく差があり、
得意・不得意のバラツキが大きいのが特徴です。
もしあなたなら、お子さんが学校のテストで
80点と20点両方を取ったらどのように感じるでしょうか。
私知る限りでは
20点のテストの方に関心をよせ、
暗に「もっと努力しなさい」と言ってしまう方が多いように思います。
今は徐々に変わりつつありますが、
学校の授業は得意なことを伸ばすよりも
苦手なことを克服することに重点を置きやすいです。
これは子ども達が多様な社会に適応し、生活するためには必要なことです、
しかしアスペルガー障害の子は苦手なものがそもそも理解しにくいので、
何度も怒られたり、叱られたりして自信を失ってしまうケースが多々あります。
不得意なことはもちろんトレーニングをしていきますが、
基本的には得意なことを伸ばし、
不得意な面を補う教育をすると良いとされています。
ASDの子供とどう接すればいいの?
まず抑えておきたいのが、
お子さんが「発達障害を持っている」という視点で考えることです。
ASDのお子さんは得意・不得意が分かれており、
それは本人の性格からくるものではありません。
普通の人から見ると
「わがまま」「怠けている」と思わる行動も
発達障害によるものだと考えることで
お子さんへの見方が変わってくると思います。
特に不得意の事は
頑張ればできるようになるといったものではない
ことを是非とも理解してあげてほしいと思います。
ASDのお子さんは
他人の気持ちを理解したり、
「言わなくてもわかるでしょ」というルールを
理解することが難しい場合が多いです。
さらに子供の未熟な精神状態が合わさると
ちょっとした出来事からパニックを起こすこともあります。
お子さんと接するときは
ASDの特性を踏まえて
その子の得意な能力に訴えて子育てを行うと良いとも言われています。
以下のアスペルガー障害の特性も参考にしてみてください。
耳より目で理解する方が得意
耳で言葉を聞いてそれを理解するためには
相手が話している時間、その言葉を聞き続けて
頭の中でまとめなくてはなりません。
アスペルガー障害のお子さんの多くは
このような時間の中でまとめる作業が苦手な場合があります。
逆に目で見た情報を
瞬間的に理解する能力には優れている場合も多いです。
家族の中や学校などで守るべきルールを
紙に書いてそれを見ながら説明すると
理解しやすい場合もあります。
抽象的な表現よりも具体的に教える
私たちの脳は曖昧な物事を
過去の記憶などから補完し、理解する能力を備えています。
例えば夫婦間で
「あれどうなったっけ?」とか「それ取って」など
抽象的な表現を用いても
大体は正確に言いたいことがわかると思います。
しかしアスペルガー障害のお子さんは
「あれ」とか「それ」といった表現が
理解しづらい傾向にあることが多いです。
例えばあなたが他人にお願いをしたとき、
「今日はちょっと忙しいから、またね」
と言われたらどう考えますか?
多くの人は
「おことわりします」
の意味に受け取ると思います。
しかし彼らは
「”今日は”いそがしいから」の”今日は”の部分にひっかかり
次の日にまた同じお願いをしに行くということを繰り返してしまいます。
普通の人なら
言葉の裏を読んで、
これはやってもいい、これはやってはいけない と
判断できますが、
アスペルガー障害のお子さんは
この「言葉の裏を読む」ことが非常に苦手ですので、
他人から
気が利かない
空気が読めない
など思われてしまうことが多々あります。
子育てにおいても
曖昧な言葉は避け、
具体的な指示を出してあげると
お子さんも理解しやすくなるのではないかと思います。
想像するのは苦手・記憶するのは得意
人間の脳は想像を創造に変えることができる生き物です。
まだ行ったことの場所を頭の中に思い描けますし、
見たこともないものを絵などに描くこともできます。
しかし自閉症などのお子さんは障害により
想像力が乏しい場合が多く、
経験していないことを
想像することが苦手とされています。
よく子育てで
「相手の事を考えなさい」
と教える場面があると思います。
しかし自閉症スペクトラムのお子さんは
想像することが苦手なため、
自分がこうしたら相手はどう思うだろう
ということが分からないのです。
そのため、他人からは
人の気持ちがわからない人
無神経、嫌なやつ など
思われてしまうことがあります。
逆に経験したことを記憶することに関しては
素晴らしい能力を発揮する場合があります。
私が教員時代の教え子で
駅の柱の数を覚えている子がいました。
彼らは経験した事、
さらにそれが自分の興味のあることなら
驚くべき能力をはっきしますが、
想像力の欠如は
円滑な対人関係を築く上で
不利になりやすい現実があります。
子育てにおいても可能な限り、
実際にやってみせてあげる
ことを意識すると良いかもしれません。
文字通りに解釈し柔軟性に欠ける・理論的で正確さに引かれる
言葉を文字通りに解釈し、
前後の文脈の中で言葉の背景などを
柔軟に読み取ったり、比喩的な表現が苦手とされています。
例えばあなたなら
太陽が笑っている
という文章があったらどのような場面を思い浮かべるでしょうか?
おそらく明るい感じをイメージできると思います。
しかし自閉症のお子さんは
このような比喩的表現を想像し理解することが苦手な場合が多いです。
逆に論理的で正確なことは得意な場合が多いです。
子育てにおいても
日が沈むまでに帰ってきなさい
のような指示よりも
5時10分には帰ってきなさい
などのように正確に指示してあげると
理解しやすいのではないでしょうか。
興味・関心の幅は狭いが興味のあることには集中する
これはよく知られたアスペルガー障害の特徴だと思います。
色々な事に興味を示さないが、
何か好きなことがあると
それをもの凄く集中して行います。
私の担当したクラスでは
電車が好きな子が大勢いました。
しかも一口に電車と言っても
その中でさらに興味を持っている分野が違うのが面白いです。
例えばある子は
日本全国の「貨物列車」に興味を持っていたり
列車の「車輪」に興味を持っていたり
駅の「発車メロディー」に興味を持っていたりなど
自分の好きなことはマニア顔負けの知識や洞察力をもっていたりします。
もし子育てにおいて
何かをずっとやり続けるような場面に出くわしたら、
それを肯定的に受け止めてあげて
好きなことを伸ばしてあげると良いと思います。
応用・手抜きが苦手で覚えたことはキチンと実行する
私たちは仕事でも家事でも
意識的・無意識的に手抜きをすると思います。
私は過去にコンビニでバイトをしていたことがありますが、
掃除や品出しなど
効率という名の手抜きをしょっちゅうしていました。
注意してほしいのは
ここで言う手抜きとは
怠けるとかサボるという意味ではありません。
普段やらなくてはいけないこと全てに
100%は求めないと思います。
80%や場合によっては
とりあえずと言って50%くらいで終わらせるかもしれません。
アスペルガー障害の人はこの
80%で作業をする
ということができないのです。
なんでもキチンと決まった手順でやろうとします。
忙しかったり、あなたがそこまで求めていないとしても
いつも決まった順番通りにキチンとしないと気が済まないのです。
手抜きができないため
ひとつの作業に時間がかかってしまい
他の人から見ると
「のろま」や「サボっている」と
見られてしまうこともあります。
また手抜きができないため
「疲れてしまう」事も多々あり、
それがまた「サボっている」と誤解される原因になることもあります。
自閉症の子の子育てに疲れないために
ASDのお子さんの行動を
全て把握し、コントロールすることは
ほとんどの人には無理だと思います。
しかし、ASDの特徴からくる
対人関係や学習の困難などを
自分のせいにしてしまうお母様が多くおられます。
お子さんが
何を考えているかわからない・・・
どう関わればいいんだろう・・・
育て方が悪かったのか・・・
将来は大丈夫なんだろうか・・・
など全てを一人で抱え込み、
心身のバランスを崩してしまい、その結果
ストレスを子供にぶつけてしまうなどのケースもあります。
自閉症スペクトラム・アスペルガー障害を治癒させることは
今のところできません
なので大切なことは
一人で抱え込まずに
周りの人や機関に助けを求めることです。
担当の先生やお医者さんの他にも
同じような悩みを抱えた親御さんとの交流や
お子さんを一時的に預かってくれる
レスパイトサービスなどを利用し、
自身のストレスも上手くコントロールしていくことが
ASDのお子さんの子育てには
なにより必要な事だと思います。
どうか決して
あなたは一人ではないということを忘れないでください。
まだ出会っていないからといって
あなたを助けてくれる人がいないとは言えません。
誰かに悩みを聞いてもらうだけでも
心が軽くなりますし、
前向きな心があれば、
悩みを解決するヒントが見つかることもあります。
まずは一人で悩まず
誰かの手を借りながら
ゆっくりと
お子さんの特性を理解していくのが良いのではないでしょうか。
このページは
NPO法人 ノンラベル 編
どう関わる?
思春期・青年期の
アスペルガー障害
を参考にさせていただきました。